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第546話 〜2001/7/10〜

■秘密のデート(1)

(初の短編小説に挑戦。たぶん、5話完結)

 おぼろげに目が覚めていくにつれ、体のあちこちの痛さが伝わってくる。いや、この痛さで目が覚めたのかもしれない。記憶の糸をたどっていくと、ハンドルを握っていたところまでは覚えているが、それ以降は全く覚えていない。どうやら自分は病院に担ぎ込まれた様だ。左腕には点滴の針が刺さっている。

 「目が覚めましたか?」
ちょうど、看護婦がやってきた。
 「秀野俊介さんですね」。
 「はい」。
 「秀野さん、意識が戻りました」。
看護婦がナースコールでそう告げた。

「お連れの女性の方も、先程気が付かれましたよ」。
 この呪文で一気に意識が覚醒したが、いっそのこと気を失ってしまおうかと思った。連れの女性というのは、妻でなければ、娘でもない。妻が子供と里帰りした隙に、ネットで知り合った彼女と「秘密のデート」よろしく、ドライブに出掛けた矢先に事故に遭ってしまったようだ。

 看護婦が私の手を取って脈を取りだしたが、不規則なそのリズムで彼女には全てが読まれているような気がして、ますます脈が早くなっていくのが自分でも分かる。

 少しずつ記憶がはっきりしてきた。前の車が窓から投げ棄てた空き缶を避けようとしてガードレールにぶつかって、エアーバッグが作動した。その瞬間に目の前が真っ白になり、何も見えないまま、次の衝撃で気を失ってしまった。

 しばらくすると医者が病室に現れた。
 「どうですか、秀野さん。どこか痛いところとか、吐き気がするとか?」
 「体のあちこちが痛いんですが、吐き気とかはありません。けどまだ頭がもぁーとした感じで」。
 「全身打撲とそれに頭も少し打っているようですね。意識が戻ったので再度脳波の検査をしてみましょう」。
 「連れの様態はどうですか?」。
 「ああ、あの女性なら、あなたよりも軽いです。大丈夫ですよ」。

 「パパ!」。
 「おとうさん」。
 ちょうどそのとき、ドアをノックする音と同時に、妻と娘が病室に駆け込んで来た。

− つづく −
(もちろん、フィクションです)

(秀)


第547話 〜2001/7/11〜

■秘密のデート(2)

(初の短編小説に挑戦。たぶん、5話完結。その第2回)

 「大丈夫、大丈夫なの?」。
 妻は私の顔と医者の顔を交互に、今にも泣きそうな目で見ている。このときの妻の慌てぶりは、後にも先にもこのとき限りであった。実家から戻って、病院からの留守電を聞いて駆けつけたらしい。娘の加奈子は事態が分かっていないようだ。無理もない。3才の娘には無理な話だ。

 「奥さんですか?。大丈夫ですよ。詳しくはまだ検査が必要ですが、すぐに退院できると思います」。
 医者からのこの一言を聞いて安心したのか、妻は私の手を握ったまま、崩れ落ちるように座り込んでしまった。
 「イテテテテテー。手が痛いよ」。

 「あなた、車は?、車?。廃車なの?。どうしてこんな事になったの?」。
 「車は多分ダメだろう。事故で意識がないままここに運ばれたから、見てはないけど」。 
 「警察の事情聴取がこれからあると思います。意識が戻ったと、警察に連絡が行ってると思いますから」。
 看護婦が事務的に言葉を挟む。

 「保険が利くわよね?。あなたの治療費も車も」。
 無事が分かった途端に、次は金の話か。治療費?、やばい!、彼女の治療費はどうなるんだ?。もちろん、彼女の分も保険は利くだろうが、ばれちゃうよ、「秘密のデート」?!。

 悪いことというのは、何度かそれを繰り返す中で油断からミスを犯し、それで悪事がばれるものだと思っていた。一度だけならばれなかったものを味をしめてそれを繰り返すからいけないんだと。しかし、今回は不運にも一度目でばれてしまうとは。しかも、未遂。

 「ちょっと、実家に電話してくる。大したことなかったって」。
 「ああ、分かった」。
 「ママ、ジュース」。
 二人は病室を出ていった。

 慌ただしく、隣の病室に人が入っていく気配がした。
 「江里子!」。
 山本江里子。まさしくそれは彼女の名。彼女の名をそう呼ぶのはおそらく彼女の両親に違いない。

− つづく −
(もちろん、フィクション)

(秀)


第548話 〜2001/7/12〜

■秘密のデート(3)

(初の短編小説に挑戦。たぶん、5話完結。その第3回)

 彼女と私の共通点はサザンオールスターズが好きなことだった。去年の茅ヶ崎ライブの話では大いに盛り上がった。まだ二人が知り合う前であったが、同じ会場で同じ感動を共有していたことで急に親近感が増した。彼らのデビュー当時の昔話を交えてうんちくを語る私に悔しそうにすねてみせる姿がいとおしい。

 もちろん、彼女には私が妻子持ちであることは告げてある。にも関わらず、「『LOVE AFFAIR〜秘密のデート』のコース巡りのドライブをしてみませんか?」という私の投げかけに、「面白そう!」、と彼女は応じてきた。

 彼女の原体験としてのサザンというのは、活動再開後の「みんなのうた」からだと言う。私にとってはむしろ、活動停止前の曲の方が馴染みが深い。しかし、それでも10歳くらい年上のサーファーくずれの上司から「サザンを聞きながら江ノ島行ったのは良いけど、渋滞でさー。まわり、みんな同じ様な奴ばっか」、なんて話を聞かされると私達の年代は立つ瀬もない。何しろ、その頃は中学生だったから。

 ドライブ中の音楽はできるだけ新しいサザンの曲にしてみた。しかもキーワードは夏。「波乗りジョニー」の次は古い曲ではあるが、どうしても外せない曲として「海」にした。
 「私もこの歌、好き」。
 そう言ってもらえるのはうれしかったが、今更ながらサザンの曲は下心がばれそうな曲ばかりで、このようなシチュエーションで聴くには、ちょっと抵抗があるような気がしてきた。「マイベスト」のように、MD(かつてはカセットテープだった)を編集してみたのは何年振りだろう。

 「烏帽子岩を見に行こう!」。
 「エボシイワ?」
 「チャコ」を口ずさんであげると、彼女は微笑んで大きく肯いた。このときまでは、まだ全てが順調だった。

 '85年にリリースされた「KAMAKURA」というアルバムの中に、「死体置き場でロマンスを」という曲がある。わざわざ香港まで不倫旅行に出掛けたものの、全ては妻にばれていて、不倫未遂の状態で二人が拉致されるという歌詞である。シチュエーションは違うが、ちょうどこの曲が流れる中、事故に遭ってしまったのは何かの因縁なのだろうか?

− つづく −
(もちろん、フィクション)

(秀)


第549話 〜2001/7/13〜

■秘密のデート(4)

(初の短編小説に挑戦。きっと、5話完結。その第4回)

 沈痛剤のせいだろう、どうやらしばらく眠ってしまったようだ。病室には自分しかいない。枕元には着替えの入った紙袋と加奈子のお気に入りの熊のぬいぐるみが置いてあった。「忘れて行きやがって」、と思ったが、娘なりの優しさなのだと、ふと思った。

 痛みもだいぶ無くなって来た。点滴も終わっている。どうやら歩くことは出来そうだ。トイレにも行きたくなったし。点滴の針を自分で抜き、ティッシュで止血すると、ゆっくりベッドから起き上がってみた。

 トイレに行きたいのも事実だが、それ以上に隣の病室に入院しているであろう彼女、江利子のことが気になった。壁につたわり歩きながら、病室のドアを廊下側に押し開けた。

 「301」。私の病室の番号だ。在室者のネームプレートのスペースは4人分あるが、名前があるのは私の分だけだ。
 隣の「302」の部屋のネームプレートには3人の名前がある。しかし、”山本江利子”の名前はない。
 「秀野さん、勝手に出歩いちゃ行けませんよ」。
 後ろから、さっきの看護婦が声をかけて来た。
 「ああ、山本さんなら、さっき退院されて、家族の方と帰って行かれましたよ」。

 彼女のけががかすり傷程度だったのは喜ばしい限りだが、一目会って事故のことを詫びたいし、治療費のことなどで話をしたかった。黙って帰ってしまったのには何か理由があるのだろうか?。

 病室に戻って、加奈子が置いていったぬいぐるみを抱き上げてみると、その熊の耳にピアスが。妻はピアスなどしない。江利子が部屋に来たんだ。そうに違いない。あたりを探してみたが、ピアス以外のメッセージは何もなかった。

 それから、2日後に私も退院した。
 しかし、彼女との連絡は取れないままである。

− つづく −
(もちろん、フィクション)

(秀)


第550話 〜2001/7/16〜

■秘密のデート(5)

(初の短編小説に挑戦。5話完結。その最終回)

 結局、彼女の消息は掴めないまま、その年の夏は終わってしまった。

 彼女について知っていること言えば、携帯の番号とメールアドレス。それに、「山本江利子」という名前だけでしかない。探偵を使って調べれば探し出せないこともないと思ったが、彼女が突然消えたことから彼女の意を汲んで深追いするのはやめた。

 そして、あの日のことを毎日思い出すことがない程度に時間が経った時、彼女の姿をテレビで見掛けた。名前は違っていたし、一度っきりしか会っていないが、あの顔は彼女に間違いない。

 明石家さんまが大勢の素人女性を相手に、彼女達の恋愛経験などを聞き出し、笑いものにする深夜番組である。

 「『秘密のデート』不倫ドライブで交通事故」。
 画面にこんな文字が出て、彼女があの日のことを面白おかしく話している。さんまは歯をむき出しにして、「最低な男やなー」と突っ込む。

 妻は彼女の話に、まるで他人事のように、大きな口を開けて笑っている。

− (完) −
(もちろん、フィクション)


(秀)


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