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第851話 〜2002/9/27〜

■ウェルズからの招待状(1)

 クレオパトラがエジプトに現れた。天から降ってきたのか、地から湧いて出てきたのか、その現れる瞬間を見たものはいないが、砂漠に一人佇むその美しき女性は自らをクレオパトラと名乗った。確かに目鼻立ちがくっきりとした美形であるが、人々が思っていたよりもその女性の鼻は低い。警察に捕らえられ、話を聞こうにも、彼女は興奮し埒があかない。クレオパトラと名乗ることと、その様子から気が触れた不審者として扱われた。彼女が身に付けているもの、金銀、それに石の類は皆本物で、純度も極めて高いものだった。

 地元ではクレオパトラの出現は大きな話題となっていたため、外国のメディアにも伝えられ、日本でもワイドショーなどが軽く扱うまでにはなっていた。しかし、次に現れたのがプレスリーであり、マリリンモンローであったため、その時点で世界的なメディアでの大騒ぎとなった。クレオパトラの場合はさておき、この二人が生存していたのはそれほど昔のことではない。第一、写真や映像、それに指紋なんかも残っている。驚愕すべきは二人とも、かつての本物と同じ指紋をしていた。続いて、やれ声紋だ、DNA鑑定だ、といった声が挙がるのも当然のことだろう。もちろん、寸分違わず合致していたことは言うまでもない。

 マスコミはクローン人間の出現と断定し、それについては激しく反対を唱えるものの、現れたプレスリーやモンローを攻撃することはなく、それぞれが彼らが現れるに至った経緯を知りたがった。

「えっ!、今が21世紀だって?。信じられないね。けど世の中の変わりようを見ると、あながち嘘でもなさそうかな。でも、21世紀ってロボットが街を歩いていたり、車が空を飛んでいるんじゃなかったかな?」。
「今がもし21世紀だとすると、まるでタイムマシンに乗ってきたようじゃないか?」。

 どこまでが本気でどこからがジョークか分からないが、プレスリーはこう言った。

<つづく>

- - この話はフィクションです。- -

(秀)


第852話 〜2002/9/30〜

■ウェルズからの招待状(2)

 時間をちょっと戻さなければならない。例のクレオパトラが現れる半年ほど前だろうか。アメリカで1冊の本が出版されている。「ウェルズからの招待状」というタイトルの本だが、ほとんどこの本のことを知る人はいなかった。著者はハーバート・ジョージ・ウェルズ。H・G・ウェルズと言った方が分かりやすいかもしれない。かの小説「タイムマシン」で一世を風靡した、SF作家と同じ名前である。

 H・G・ウェルズの未発表原稿かと思いきや、むしろそれを否定するようなものばかりである。ある日原稿がこの出版社に送られてきた。差出人はもちろんH・G・ウェルズ。原稿を読んでみると、確かにウェルズの作品にテイストが非常に似ている。しかし、文章中に現れる未来の記述があまりにもリアルで、到底ウェルズが書いたものとは思えない。きっとウェルズの名を語る覆面作家が書いたに違いない。とりあえず話自体は面白いので本にはしてみたが、そう簡単に売れるものではなかった。

 その本に実はクレオパトラが再来するところが出てくる。まあ、そこまでは許そう。H・G・ウェルズよりも前の時代の人だから、それを小説に書くことはできる。しかし、彼の死後に登場したプレスリーやマリリンモンローの再来までもこの本には書き記してあるところが、H・G・ウェルズ自身の執筆による未発表原稿ではないと断定される理由であった。

 しかし、クレオパトラに続いて、プレスリーやマリリンモンローの再来まで予言していたこの本はたちまち売れ始め、各言語にも翻訳され、世界的なベストセラーとなった。次に何が書かれているか?、次に何が起きるのか?、彼らは本当にクローン人間なのか?、と多くの人々の関心を集めた。この本の出版社もマスコミも本当のこの本の作家を探し出した。ウェルズの子孫達に取材が向けられるが、彼らにも詳しい事情は分からない。偽者も現れた。いや、名乗り出た全てが偽者である可能性も否定できない。印税は宙に浮いたままである。

 この本の冒頭部分を紹介しておこう。
 「親愛なる21世紀に住む皆さん。物語は既にはじまっています」。

<つづく>

- - この話はフィクションです。- -

(秀)


第853話 〜2002/10/1〜

■ウェルズからの招待状(3)

 この本に書かれていることがもし真実だとすれば、クレオパトラもプレスリーも、それにマリリンモンローもタイムマシンで時空を越えて過去からこの今の時代にやって来たと思うだろう。しかし、本の中にはもっと逆説的に、もっと驚くべきことが記されていた。

 「クレオパトラが突然21世紀に現れるとしたら、それはタイムマシンで過去からやってきたと思うのが普通であろう。その前にタイムマシンの存在そのものが疑わしいと思うかもしれないが。しかし、そもそも彼女がいつの時代に生まれたかという観点でを考えると、一方的に過去からやってきたとは断定することはできない。そもそも今の時代に生きていた女性がタイムスリップして過去に渡り、歴史の一頁にその足跡を記しているのかもしれない。

 多くの人が未来を知りたがる。自分の将来の様子を知りたいというところから、中にはそれで金儲けをたくらむ者もいるであろう。ギャンブルで一山当ててやろうと思うのも無理からぬことだ。また、多くの人が過去に戻りたいと思う。その過去の瞬間を変えることで、自分にとってより良い今やより良い未来を欲するのも分かる。それは例えば過去では現在が未来であるからで、その時点での未来を知っているからこそできることだ。

 歴史に名を成した、偉人と呼ばれる人々が未来を知っていたとしたら。彼らの能力に驚くべき要素など何一つない。過去が未来を作り出しているのではなく、更なる未来が過去を作り出している事実にそろそろ我々も気が付くべき頃だろう。かく言う私も未来で見てきたことを文字にして書き記しているに過ぎない。この本も、そして、小説『タイムマシン』もまさしくそうだった」。

<つづく>

- - この話はフィクションです。- -

(秀)


第854話 〜2002/10/2〜

■ウェルズからの招待状(4)

 過去が未来を作っているのではなく、未来が過去を作り出している、という表現は非常にパラドックス的だが、本の中でそう説明されると、それを否定することが難しく思えてくるから不思議だ。むしろ、現にその本に書かれていることが次々と連続して起きるからには、それを偶然と片付けてしまうにはもはや難しくなってしまった。

 そこで一気にタイムマシン探しが始まる。テレビでは何の専門か分からない、これまで日が当たらなかったような研究者が盛んにタイムマシンのメカニズムについて説明しているが、一般人にはさっぱり分からない。肝心な、「それで今すぐタイムマシンができるのか?」という問いに対して明確な答えを示せるものはほとんどいない。そうするうちに科学者同士で論争が始まるに至ったが、誰の理論が正しかろうと、彼らの手でタイムマシンを作り上げることが無理なのは一般人にも分かった。そんな論争をやっている暇があったら、さっさと作ってみろ!、というわけだ。タイムマシン開発中という噂で会社の株価を吊り上げようとする輩も現れた。

 そして歴史研究家の中では、未来からやってきたタイムマシンがこれまでの歴史のいずれかでその足跡を残していないかを研究し、論じるようになった。UFOがそうだとか、イエスキリストは未来からやって来ていた、卑近なところでは日本でも聖徳太子がそうだったとかかなり突飛な説も出るに及んだが、いずれも想像の域を出ていない。

 そしてついに、世界を驚かせる、ビッグニュースが世界中を駆け巡った。タイムマシンのメカニズムというべきものが発見されたというものだ。発明ではなく発見というところが気になるが、それには意味があった。かのアルバート・アインシュタインの遺品の中から約4000ページに及ぶ未発表原稿が発見されたというものだった。「相対的時次空間原理」というタイトルのみで人々の心は躍った。しかし、この理論を正しく理解できる人間が世界中に何人もいるはずもない。はたしてこれがタイムマシンのメカニズムそのものなのか、また、その原理とやらを実現するための機械、すなわちタイムマシンを具体化できるかとなると、その判断だけでも、相当の時間を要することだろう。

<つづく>

- - この話はフィクションです。- -

(秀)


第855話 〜2002/10/3〜

■ウェルズからの招待状(5)

 さて、再度話を本に戻そう。本の最後の部分には具体的な場所や日付等は記されていないものの、ウェルズ自身がタイムマシンで我々の前に姿を現す日が近いことが記されていた。自分はこの時代に安住したいため、未来にはもう戻らず、発見した人にはそのタイムマシンを差し上げるとまで書いてある。その日がいつか、その場所はどこか、世界中がその謎解きに熱中した。

 この「ウェルズからの招待状」が出版される際に、出版社の意志により一部削除された部分がある。そもそも「ウェルズからの招待状」という表題すらもこの出版社によって捻じ曲げられて付けられたものだった。削除された部分を見る限り、原題通り「警告書」とするのが妥当だったはずだ。本当に彼が我々に伝えたかったことが消されてしまっている。もちろん、世の多くの人はそんなことなど知らず、謎解きに熱中したままだ。その部分は次のような内容だった。

 「私がかつて書いた小説『タイムマシン』は先にも述べた通り、私が実際に80万年後の未来として見てきたものである。そして私は命からがらあの暗黒の時代から19世紀に戻ったのをご存知の諸氏も多いことだろう。私はもう未来へのタイムトラベルはこりごりだ。私が生まれた42世紀に比べれば、19世紀や21世紀は戦争や貧困があるものの、夢のような時代である。

 それでもあなた方はまだタイムマシンにあこがれ、未来人との遭遇や未来へのタイムトラベルを夢見るだろうか?。未来を知り、金儲けを企もうとする輩は後を絶たなかった。しかし、さらなる者の手でその結果はすり替えられ、結局誰も金儲けなどできずに、無秩序なパラドックスが頻発し、未来も現代も過去も別のものへと常に変わりつつある。それでもまだ....」。

 そして話はタイムマシンで21世紀に自分が現れる、という部分につながる。そして、自分以外にも現れるであろう、その数に関する記述の部分も削られていた。

 西暦20XX年。ウェルズの予言通りに未来人は暗黒の時代となった未来や絶滅の危機に瀕した未来を捨て、タイムジプシーとしておびただしい数で私達の前に姿を現した。人口は既に2倍以上に膨れ上がり、その勢いは止まらない。地球滅亡までの時間がこれでさらに加速されてしまった。

<完>

- - この話はフィクションです。- -

(秀)


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