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第891話 〜2002/11/26〜

■ロケット鉛筆

 私達は当時それを「押し出し鉛筆」と呼んでいた。商標なのかどうだかは未確認であるが、世間的にはロケット鉛筆という呼称の方が一般的かもしれない。プラスチックの軸の中に、プラスチックの土台と鉛筆の芯が一体になった替え芯が10個入っていて、そのそれぞれの形状がロケットのような形をしていた。先頭の芯を抜き取り、それを軸のお尻のほうから押し込むと中の芯が押し出されて、また新しい尖った芯が顔を出すという構造の鉛筆だ。確か一本30円だったと思う。先頭には半透明のキャップが付いていた。

 そもそもどういういきさつでその鉛筆を手にしたかを覚えていない。ただ、それを買い求めた動機に思い当たるふしはある。当時私は自分の勉強机というものを買ってもらえず、こたつか夕飯が終わった飯台、もしくは床に寝そべって宿題を済ませていた。友達の家には立派な学習机があって、そこには内蔵型の電気スタンドや電動鉛筆削りが付いていた。宿題が終わったら明日に備えて鉛筆をといでおくものらしい。机に座っていて、目の前の鉛筆削りに鉛筆を入れるだけで簡単に削れてしまうのであれば、それはごく当たり前のことであろう。私も小学校に入るときに電動鉛筆削りを買ってもらったが、それを使うには階下から持って来て、箱から出して、コンセントに繋げねばならない。後片付けも必要だ。こうなると削っている手間よりも準備と後片付けの方に要する時間の方が長い。

 そんなときに削らなくても良い鉛筆というのは魅力的だった。面白がって、必要もないのに使ってみる。先が丸くなったので、先端を抜きとり、軸のお尻からぎゅっと次の芯を押し出す。この手軽さが嬉しい。しかし困ったことに芯はすぐに丸くなってしまう。それなのに芯は10個しかない。どのくらいで芯を替えるべきか悩む。鉛筆なら迷うも何も削ってしなえば良いし、10回削って終わり、というようなこともない。一通り使ってしまうと今度は中からあまり丸くなっていないものを選んで使おうとする。しかしずっと使っていると、あまくなって、ちょっと力を入れただけで芯がへこんでしまうようになる。

 やがて熱は冷め、ロケット鉛筆のブームと前後して、小学一年生ながら、私はシャープペンを手にするに至った。当時、シャープペンはまだそれほど子供の間には普及しておらず、シャープペンを持っているのは、クラスに私と私に感化されて買ってもらったもう一人だけだった。芯が12本で100円と高かった。それでもロケット鉛筆に比べれば格段の進歩である。早川徳次氏に感謝。(早川徳次って誰?)

(秀)

from.綾丸さん
from.178cm90kgさん

第892話 〜2002/11/27〜

■シャープぺン

 私が初めてシャープペンを手にしたのは小学1年生の2学期のことだった。夏休みに行った親戚の家で、従兄弟からシャープペンを見せられ、その存在を知ってしまった。家に帰るや近所で本と文房具を売っている店で300円のシャープペンを買った。それほど種類もなく、至ってシンプルなシルバーのそれであった。ノック式、0.5ミリ。

 とりあえずそんなものを持っているのはクラスにたった一人で、後に私の影響で二人になったものの、その当時は大勢に影響はなく、先生から注意を受けることなどなかった。ところが学年が進むにつれて、シャープペン人口は拡大を続け、上級生になると、誕生会のプレゼントとして500円程度のシャープペンを持っていくのが恒例化した。このため、誕生会をやると筆箱に入りきらないほどのシャープペン持ちになれた。

 そうなると先生の目に付くようになって、シャープペン禁止令が出てしまった。理由は「シャープペンは力が入らないから」。まあ真っ当な理由とは到底言えないが、元来子供を相手にした先生の言い分なんかそんなもんだ。ところがそれ以上に厄介なのは、その先生の言葉を真に受けて、隠れて使っていようものなら、「いけないんだ、いけないんだ。先生に言ってやろう」と騒ぎ立てる輩である。皆さんの周りにもそんなキャラクターの存在があったのではなかろうか?。

 そして、いつも芯を貰ってばっかりの奴にも困ったし、「ちょっとペン貸して」と友達に頼まれて、持ち合わせているシャープペンを貸してあげるのは問題ないが、その際にシャープペンに付いている、あんなに小さい消しゴムを、しかも自分は使わずにいたのに、それを勝手に使われてしまったときにも、無性に腹が立ったもんだ。

(秀)

from.綾丸さん

第893話 〜2002/11/28〜

■コロッケ屋

 会社から歩いて5分くらいの所にその店はある。昼間は定食を出している。表向きはとんかつ屋なのかもしれないが、コロッケも相当美味い。コロッケ定食他、揚げ物の定食屋である。夫婦と思しき二人でやっている。「コロッケ食いに行こうか?!」というのが決り文句である。その日我々は4人でその店に足を運んだ。

 コロッケは確かに美味い。しかしこの店にはやや難点がある。まず、店が狭い。そして料理がなかなか出てこないのである。席に座って注文を済ませてからも10分は待たされる。ランチタイムには致命的である。注文を受けてから揚げるだけでなく、注文を受けてから仕込むのである。エビフライもイカフライもコロッケも、注文を受けてから、衣をつけ始める。席も少なく、料理もなかなか出てこないため、客の回転がすこぶる悪い。ちょっと出遅れてしまうと、店の外で相当待たされてしまう。これからの季節はちょっとつらいかも。

 定食で勘定は概ね、900円程度である。かなり高価な食事だ。まあ、いつもこんなものばかり食べているわけでなく、翌日は吉野家だったりする。勘定を済ませ、来た道を戻り会社の前まで来ると、カレー売りの軽自動車が止まっていた。このカレー屋は好評で、週のうち3日来るが、いつも行列ができている。

 以下そのときの我々の会話。
「あっ、今日カレー屋来てたんだ。カレーでも良かったなあ」
「あのコロッケ屋も今の店やめて、カレー屋にすれば良いのに。客の回転率も上がるだろうし」
「テイクアウト中心だと店もそれほど広くなくて良いし」
「けど、あそこの親爺、こだわってとんかつ揚げてカツカレーとかやるんじゃない。コロッケカレーとかも」
「じゃあダメだ、さばけねーー」

(秀)


第894話 〜2002/11/29〜

■査察団がやってくる

 私が勤めている会社は別にバクダットにあるわけでなく、東京都港区にある。別に軍需関連産業でもない。なのに社内はここ数日、査察問題で大騒ぎだ。来春の本社移転を前に書類削減運動が繰り広げられているが、なかなかその成果が目に見えない。「まだ先のこと」という意識がまだ根強いのだろう。そこで書類削減運動の事務局は「査察」という手段に出てきた。

 その査察はこの土曜日に休日にも関わらず、担当者が社内を巡回してまわるらしい。「机の上、下から書類等を一掃すること」とのお達しである。それが全社員に対して電子メールで通達された。まず私の場合、机の下に約60センチの幅で書類のバインダーがある。それに机の上の本立てには40センチほどの書類やカタログ類。もちろん机の上に平積みとなったままの資料も10センチほどある。ざっと事務机の引き出し2段分になる。目的はこの資料を上手く既存の収納設備に押し込むことではなく、それに見合った分、資料を捨てることである。よって、壁にある書類庫のキャビネットや引出しの中をひっくり返し、古いものからばっさり捨てた。

 「ナレムコの統計調査」というのがある。「事務員が見る文書の99%が1年以内に作成・取得したもの。また90%が半年以内のもの」、という調査結果である。これはドキュメントを効率良く、論理的に管理する手法のファイリングデザインという資格では頻出の用語だ。5年以上も前の書類も出てくる。資料を見ると迷うので、古いものは片っ端から捨てた。「ナレムコ、ナレムコ」とお題目を唱えながら。私はこれで2日にわたって、つごう2時間をこの作業に割り当てた。

 やらされている現場側の反応はすこぶる良くない。面倒だし、ましてや月末だ。それでもしぶしぶ作業を始めようとする同僚達を前に、私はひとまず先に作業を概ね完了した。机の上も綺麗に片付いたところで、気持ちよく仕事するか、と思ったまではいいが、いざ作業を始めると勝手が違う。これまで机の上に平積みしていた書類は比較的すぐに取り出すべき書類達であった。電話が掛かってきて資料を取り出そうにもどこにしまったか、すぐに取り出せない。しばらくはどこにその書類をしまったか、体が自然に反応するまで、仕事の効率が落ちてしまうだろう。それとも、我慢できなくなって、また机の上に書類の山を築くのか。おそらく後者だな、きっと。

(秀)


第895話 〜2002/12/2〜

■真夜中のレイキ

 ここ数日、乾燥した日々が続き、夜中寝ていても喉がイガイガしたり、口の中が乾燥してふと目が覚めることがある。ゴソゴソと布団を抜け出し、台所に行き、冷蔵庫を探ってみる。

 そのとき、暗闇の中からある物体が音も立てずに私に近づいてきた。一瞬にして背筋が凍りつく。目を凝らしてよく見ると、それは寝ぼけながらも、トイレへと向かう我が長男の姿だった。「あっ!、びっくりした〜」。私のその声に息子は通り過ぎながら私に一瞥をくれて、トイレの中へと姿を消した。

 心臓がパクつきながら、ガタガタ震えが来たのは寒さのせいか、それとも冷蔵庫からの冷気によるものか?。私は右手にヤクルトの小ビンを握ったまま、しばし硬直してしまっていた。飲み干してようやく落ち着いた。

(秀)


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